「蔵」
正字(旧字体)は「藏」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は臧。臧は音符は戕しょう。臣は神に事える者。これを戈で清め祓うので、臧しとよむ字である。蔵は古い文献に“かくす”の意味に用いられているが、古い字形がないので、どうしてかくすの意味になったのか確かめることができない。藏の字形からいうと、艸(草)の中に蔵かくれた人の意味となる」

[考察]
「戈で祓い清める」とはどういうことか。これが「よい」という意味になるのであろうか。しかし「かくす」との関連性がないので「確かめようがない」と字源説を放棄した。ところが一方では、「草の中に蔵れた人」の意味を導いている。こんな意味があるはずはない。支離滅裂な字源説である。
まず古典における用例を見てみよう。
①原文:彤弓弨兮 受言藏之
 訓読:彤弓トウキュウ弨ショウたり 受けて言(ここ)に之を蔵せよ
 翻訳:反り返っている赤い弓 どうか受けてしまいなさい――『詩経』小雅・彤弓
②原文:用之則行、舍之則藏。
 訓読:之を用ゐれば則ち行ひ、之を舎(す)つれば則ち蔵(かく)る。
 翻訳:[君主に]登用されれば仕事を行うが、免職されれば身を隠す――『論語』述而

①は物を中にしまい込む(収めて貯える、収納する)の意味、②はしまい込んで隠す(外に現さない、身を隠す)の意味で使われている。これを古典漢語ではdzang(呉音でザウ、漢音でサウ)という。これを代替する視覚記号しとして藏が考案された。
藏は「臧(音・イメージ記号)+艸(限定符号)」と解析する。藏は爿→戕→臧→藏と四段階を経て図形が成立する。言葉の根源にあるコアイメージを提供するのが爿ショウという記号である。爿については1114「壮」で述べている。爿はベッドの図形であるが、実体ではなく形態・機能に重点があり、「細長い」というイメージから、「細い」「長い」「大きい」「ほっそりとして形がよい」「スマートである」などのイメージに展開する。「爿(音・イメージ)+戈(限定符号)」を合わせたのが戕で、刃物で細長く傷をつける情況を暗示させる。「戕ショウ(音・イメージ記号)+臣(限定符号)」を合わせたのが臧で、体格がよくスリムな召使いを暗示させる。これらの記号は実現される意味は違うが「細長い」「形がよい」というコアイメージは共通である。かくて藏は収穫した作物を形よく整えて収納する状況を設定した図形である。この図形的意匠によって上の①②の意味をもつdzangを表記した。