「促」

白川静『常用字解』
「形声。音符は足。説文に“迫るなり” とあり、人の背後に迫るの意味であり、行為を“うながす、せきたてる”の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では会意的に説明できず、字源を放棄している。
白川漢字学説は言葉という視点がなく、深層構造にタッチしないから、足の意味を「あし」としか見ないので、促を解釈できないのは当然であろう。しかも促の意味を取り違えている。促に「人の背後に迫る」という意味はない。
古典における促の用例を見てみる。
 原文:命重耳促自殺。
 訓読:重耳に命じて自殺を促す。
 翻訳:重耳[人名]に命令して自殺するよう迫った――『史記』晋世家
促は何かをするように迫る(せきたてる、うながす)の意味である。これを古典漢語ではts'iuk(呉音でソク、漢音でショク)という。これを代替する視覚記号しとして促が考案された。
促は「足(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。足は実体に重点があるのではなく機能に重点がある。足の機能は左右の足を引きつける動作を連続させて進むことにある。ここに、空間を短縮させる(縮める)というイメージがある(1157「足」を見よ)。空間的イメージは時間的イメージ、心理的イメージにも転用される。時間的には「間を狭める」、心理的には「せかせかする」というイメージである。したがって促は人をせかせかと間を置かずにせきたてる状況を暗示させる。この意匠によって上記の意味をもつts'iukを表記した。
コアイメージがそのまま意味として実現されることもある。促音の促は「縮める」という意味である。