「側」

白川静『常用字解』
「形声。音符は則。則は鼎の側面に重要な契約事項を刀で刻むことをいう。その銘文を刻むところ、円鼎の側面(左右の面)の意味を人に及ぼして側といい、人の“かたわら、そば、わき” の意味となる」

[考察]
白川漢字学説は形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。則(円鼎の側面)+人→人のかたわらという意味を導く。
則の解字の疑問については1159「則」で述べた。則に「鼎の側面に重要な契約事項を刀で刻む」とか「円鼎の側面」という意味はあり得ない。意味とは「言葉の意味」であって文脈に使われて初めて意味が生じる。文脈にない意味は架空のものに過ぎない。
古典の文脈における側の用例を見てみよう。
①原文:殷其雷 在南山之側
 訓読:殷たる其そ雷 南山の側(かたわら)に在り
 翻訳:とどろき渡る雷は 南山の山沿いに――『詩経』召南・殷其雷
②原文:側弁之俄 屢舞傞傞
 訓読:弁を側(そばだ)つること之(こ)れ俄ガたり 屢(しばし)ば舞ふこと傞傞ササたり
 翻訳:[酔っ払いは]冠を斜めに傾け しばしば舞って千鳥足――『詩経』小雅・賓之初筵

①は本体のそば、中心から片方にそれた所の意味、②は斜めに傾く、片方に寄せる(そばだつ)の意味である。これを古典漢語ではtsïәk(呉音・漢音でソク)という。これを代替する視覚記号しとして側が考案された。
側は「則(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。則については1159「則」で述べているが、もう一度振り返る。則は「鼎+刀」に分析する。鼎は煮炊きする調理用具である。刀はナイフや庖丁の類と考えてよい。調理に付き物の道具である。「鼎+刀」でもって鼎(本体)の側にナイフ(付き物)が添えてある情景を設定した図形である。この図形的意匠によって「本体のそばにくっつく」というイメージを表す記号になる。したがって側は人を中心とすると、中心や正面の左右にくっついた所、つまり「かたわら」を暗示させる。
中心から片方にそれていることから、片方に寄る→斜めになるという意味(上の②)を派生する。