「測」

白川静『常用字解』
「形声。音符は則。則は鼎の側面に重要な契約事項を刀で刻むことをいう。この円鼎に刻まれた約剤(契約書)は準則となり、その準則に合っているかどうかを考えることを“はかる” という。とくに水の深さをはかることを測という」

[考察]
則の解字の疑問については1159「則」で述べた。則に「鼎の側面に重要な契約事項を刀で刻む」という意味はない。意味とは「言葉の意味」であって、実際の文脈で使われる意味である。文脈がなければ意味の取りようがなく、想像的な意味でしかない。
契約書が準則となり、準則に合っているかどうかを考えることが「はかる」ことだというが、この「はかる」から「水の深さをはかる」へ展開させるのは飛躍である。前の「はかる」は推量するといった意味であろう。
古典における測の用例を見てみよう。
①原文:以土圭之法測土深。
 訓読:土圭の法を以て土の深さを測る。
 翻訳:日時計で土に映る影の長さを計測する――『周礼』地官・大司徒
②原文:陰陽不測謂之神。
 訓読:陰陽測れず、之を神と謂ふ。
 翻訳:陰陽ははかり知れない、これを神秘というのだ――『易経』繫辞伝上

①は深さや長さをはかる意味、②は心で推しはかる意味である。これを古典漢語ではts'ïәk(呉音でシキ、漢音でソク)という。これを代替する視覚記号しとして測が考案された。
測は「則(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。則は鼎(本体)の側にナイフ(付き物)が添えてある情景を設定した図形で、「本体の側に添え物がつく」「AにBがくっついて離れない」というイメージがある(1159「則」を見よ)。本体に視点を置くと、基準になるものという意味が実現される。これが法測・規則の則である。だから則は「基準となるAにBが寄り添う」というイメージを表すことができる。かくて測は基準となるもの(計測用具)に従って水の深さをはかる状況を暗示させる。
①は空間的な長さをはかることだが、メタファーによって、心理的に見当をつけるという意味を派生する(上の②)。これが推測・予測の測である。