「村」

白川静『常用字解』
「形声。音符は寸。古くは邨に作り、屯と阝(邑)とを 組み合わせた形。屯は織物の純へり飾りの形で、織り留めのところを結び固めた形であり、糸を集めるの意味がある。邑は囗(城郭の形)と巴(卩で、跪く人を横から見た形)とを組み合わせた形で、城中に人がいるの意味となり、みやこ、まち、むらをいう。邨は人の集まり住む“むら、いなか”の意味に用いる。村は邨の形声の字である」

[考察]
邨から説明し、村は形声で片付けて、字源を放棄している。邨が村の古字だというが、村も邨も漢代以後の字でどちらが古いと言えない。
村は「寸(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。 寸は「又(手の形)+一」を合わせて、長さを計るとき、手の指一本幅の長さを暗示させる図形である(1008「寸」を見よ)。古典の注釈に「指を按ずる(上からそっと押さえる)を寸と為す」とある。これは長さを計るときの動作でもあるが、脈を診るときの動作でもある。中国医学では手首から一寸の付近にある脈動箇所をts'uәn(寸)という。脈を診るときここをそっと押さえる。したがってこの語には「上から下にそっと押さえる」というイメージがある。このイメージは「じっと落ち着ける」というイメージにも展開する。村は木の柵で囲い、人々が腰を落ち着けて住む場所を暗示させる。この図形的意匠によって「むら」を意味するts'uәnを表記した。
ついでに異体字の邨について。「屯トン(音・イメージ記号)+邑(限定符号)」と解析する。

 陸徳明(隋・唐代の古典学者)は述べている。長さを計るときも脈を診るときも同じ動作をする。のがts'uәnという語のコアイメージと言える。忖度ソンタクの忖(相手の気持ちをそっと推しはかる)にこのイメージが生きている。また村にも寸のコアイメージが用いられている。
この図形的意匠によって長さの単位であるts'uәnを表記する。屯は植物の根が地下に蓄えられ、芽が地上に出かかる情景を図形化したもの(842「春」、849「純」を見よ。後に「屯」で詳述)。前半に焦点を置くと「多くのものを一所に蓄える」、また「ずっしりと重く垂れる」というイメージを表すことができる。前者のイメージから「多くのものが一所に集まる」というイメージに展開する。邑は村・町・都市など、比較的大きな範囲の土地と関係があることを示す限定符号である。したがって邨は多くの人を集めて住まわせる地域を暗示させる。
村と邨は同じ語を表記するが、語源意識の変化があって、コアイメージの違う二つの字が生まれた。ちなみに日本語の「むら」は群がるのムラと同根というから、邨のもつイメージと近い。