「打」

白川静『常用字解』
「形声。音符は丁。丁は釘の頭の形。釘を打ちこむことを打といい、“うつ、たたく” の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。丁(釘の頭)+手→釘を打ちこむという意味を導く。
図形的解釈をそのまま意味としている。打にこんな意味はない。
打は漢代以後に登場する比較的新しい字である。丁が釘の頭の形であると知られたのは甲骨文字の発見後である。「釘を打ちこむ」という白川説は全く誤りということになる。
しかし時代が遅れても漢字の造形原理は受け継がれていた。丁は「直角(⊤形や⊥形)に当てる」というコアイメージがあり、「当たる」という意味も実現されていた(「丁」で詳述)。だから「打ち当てる」ことを意味するtĕng(呉音でチヤウ、漢音でテイ)を表記する視覚記号として、「丁(音・イメージ記号)+手(限定符号)」を合わせた打が考案された。次の用例がある。
 原文:口飢打手、公子恨讒。
 訓読:口飢ゑて手を打つ、公子恨讒す。 
 翻訳:[スッポン料理が食えなくて]公子はひもじいけれど手をたたいただけで、怨みに思った―― 『易林』巻一
打はうち当てる、うちたたく意味に使われている。
なおダ(ta)の音 は唐宋以後にtĕngがなまった音である。