「妥」

白川静『常用字解』
「会意。爪は上から加える手。女の上に手を加えた形で、女を安らかにするの意味となる。綏(やすんずる、やすらか)のもとの字である」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。爪(上から加える手)+女→女を安らかにするという意味を導く。
字形の解釈をストレートに意味としている。妥を「女を安らかにする」の意味としているが、こんな意味は妥にない。図形的解釈と意味が混同されている。
意味とは「言葉の意味」であって字形から出るものではなく文脈から出るものである。妥の用例を古典から見てみよう。
 原文:以妥以侑 以介景福
 訓読:以て妥(やす)んじ以て侑(すす)め 以て景福を介(おほ)いにせん
 翻訳:[かたしろを]席に着かせてごちそうを進め 大きな福を授かろう――『詩経』小雅・楚茨
妥は安らかに落ち着かせる意味で使われている。これを古典漢語ではt'uar(呉音・漢音でタ)という。これを代替する視覚記号しとして妥が考案された。
古人は「妥は綏スイなり」と語源を説いている。t'uar(妥)という言葉は唾(つば)、朶ダ(垂れ下がる枝)、綏(吊り紐)などと同源である。これらは「上から下に垂れ下がる」 というコアイメージがある。これは「上から下に押さえて落ち着ける」というイメージに展開する。
妥は「爪(下向きの手の形)+女」と分析する。舌足らず(情報不足)な図形であるが、上で検討した語源を踏まえると、女を手で押さえて、なだめて落ち着かせる情景を設定した図形と解釈できる。この図形的意匠によって上記の意味をもつt'uarを表記する。
妥結・妥協の使い方も基本は「落ち着ける」というイメージから来ている。程良い(穏やかな)所で落ち着くようにするという意味である。