「堕」
正字(旧字体)は「墮」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は隋。隋は阜(阝)と左と月(肉)とを組み合わせた形。阜は神が天に陟り降りするときに使う神の梯の形。左は呪具の工を手に持つ形。隋は神の梯の前に肉を供え、工を持ち、祈って神のある所を尋ねる形で、隋ずいではなく、隋の音でよむときは、供えられた祭肉の意味となる。墮は土(土地の神)に祭肉を供えるの意味」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。隋(供えられた祭肉)+土(土地の神)→土地の神に祭肉を供えるという意味を導く。
隋の解釈の疑問については1003「随」で述べた。墮も意味の取り方に疑問がある。墮に「土地の神に祭肉を供える」という意味はあり得ない。意味とは具体的文脈で使われる意味である。墮は次の文脈で使われている。
 原文:雨之所墮、不避大小強弱。
 訓読:雨の堕つる所、大小強弱を避けず。
 翻訳:雨が落ちてくる所は大きさや強さとは無関係だ――『管子』形勢解
墮は上から下に落ちる、また、形が崩れて落ちる意味で使われている。これを古典漢語ではduar(呉音でダ、漢音でタ)という。これを代替する視覚記号しとして墮が考案された。 
墮は「隋(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。隋については1003「随」で述べたが、もう一度振り返る。隋は「隓の略体+肉(月)」と分析する。隓の旁は左を上下に重ねた形。左は「ぎざぎざで形がそろわない」「ちぐはぐで食い違う」というイメージがある(612「左」を見よ)。左を二つ重ねて、「ちぐはぐ」「ぎざぎざ」というイメージを表している。隓は「左二つ(イメージ記号)+阜(限定符号)」を合わせたもの。阜は積み上げた土の形で、盛り土、段々、丘、山などに関わる限定符号である。隓は盛り土や山が崩れて形がぎざぎざになる情景を設定した図形。隋は「隓(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」と解析する。肉が崩れて形がぐしゃぐしゃになる状況を暗示させる。隓も隋も「崩れて定形がなくなる」というイメージがある。したがって墮は土が崩れ落ちて定形がなくなる情景を暗示させる図形である。場面が阜→肉→土と変わっても「崩れて定形がなくなる」というコアイメージは変わらない。
白川は「多くの祭肉を盛り上げるように供えるので、祭肉が“崩れ落ちる”の意味となる」と述べているが、「祭肉を供える」から「祭肉が崩れ落ちる」への意味展開は必然性がない。