「対」
正字(旧字体)は「對」である。

白川静『常用字解』
「会意。丵さくと土と寸とを組み合わせた形。丵は上部に鋸歯のついた掘鑿の道具。これを手(寸)に持って土を撲ち固める形が對で、“うつ”の意味となる」

[考察]
字形の解剖にも意味の取り方にも疑問がある。「撲」の項で「菐は鋸歯のある器(丵)を両手に持つ形で、“うつ”の意味」とある。この撲と對が混乱している。對に「うつ」という意味はない。また376「業」では「撲はもと業と廾とを組み合わせた字で、業を手に持ち、撲つという意味」とある。字形の分析が一定していない。
對の古典における用例を見よう。
①原文:足白而對。
 訓読:足白くして対(むか)ふ。
 翻訳:足は白くて向き合っている――『山海経』中山経
②原文:聽言則對 誦言如醉
 訓読:聴言には則ち対へ 誦言には則ち酔ふが如し
 翻訳:耳に聴きよい言葉には答えるが 耳に触る言葉には酔ったふり――『詩経』大雅・桑柔

①は向かい合う意味、②は答えを返す意味で使われている。これを古典漢語ではtuәd(呉音・漢音でタイ)という。これを代替する視覚記号しとして對が考案された。
對は「業の略体(イメージ記号)+土(イメージ補助記号)+寸(限定符号)」と解析する。業は楽器を吊す横木を架ける柱を描いた図形(376「業」を見よ)。「業+土」で、地面に立てた台座を示している。しかし実体に重点があるのではなく、形態や機能に重点がある。この台座は一対で用を果たす。したがって「一対をなす」「向き合う」というイメージがある。寸は動作・行為に関わる限定符号。對は二つのものが▯→←▯の形に向き合う状況を暗示させる。この図形的意匠によって上の①の意味をもつtuәdを表記した。
意味はコアイメージによって展開する。「▯→←▯の形に向き合う」というイメージから、向こうから→の形に来る問いに←の形に答えを返すという意味(上の②)に展開する。
白川は「版築(城壁などの建築法)で、二人が相対して土を撲つので、“むかう、あう、こたえる”の意味に用いる」と述べている。言語外から意味展開を説明しているが、合理性がない。