「胎」

白川静『常用字解』
「形声。音符は台。台は厶(耜の形)にᄇ(祝詞を入れる器の形)をそえ、耜を祓い清めて豊作を神に祈る儀礼をいいう。人の出生は作物と対応するものと考えられ、受胎を祈るときにも、ᄇを供え厶(耜)を祓い清めて祈った。それで台に体の部分を意味する月(肉)を加えた胎は、“はらむ、みごもる”の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。台(耜を祓い清めて豊作を神に祈る儀礼)+月(肉)→はらむ・みごもるという意味を導く。
台の字解の疑問については1202「台」で述べる。豊作を祈る儀礼から「はらむ」の意味を導くのはあまりに突飛すぎて、不自然である。受胎を祈るため祝詞の器を供えて耜を祓い清めたという習俗を根拠にしているが、何の証拠もないことである。
白川漢字学説には言葉という視座がなく、字形から意味を引き出そうとするから、恣意的な解釈に陥りやすい。意味とは「言葉の意味」であって字形にあるものではない。意味は言葉の使われる文脈にある。
古典における胎の用例を見ることが先決である。
 原文:刳獸食胎則麒麟不來。
 訓読:獣を刳(えぐ)り胎をへば則ち麒麟来らず。
 翻訳:獣をえぐって胎児を食うと瑞祥の麒麟は現れない――『呂氏春秋』名類

胎は腹子の意味、また、子を宿す(はらむ)の意味である。これを古典漢語ではt'әg(呉音・漢音でタイ)という。これを代替する視覚記号しとして胎が考案された。
胎は「台(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」と解析する。台は「道具を用いて手を加える」というイメージがあり、これは「動作を起こし始める」というイメージに展開する(699「始」、1202「台」を見よ)。胎は妊娠して腹子が動き始める状況を暗示させる。