「貸」

白川静『常用字解』
「形声。音符は代。説文に“施すなり” 、広雅に“予ふるなり”とあり、貸はもと“ほどこす、あたえる”の意味であり、のち“かす”の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説は形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では代から会意的に説明できず、字源を放棄している。
形声の説明原理とは言葉の深層構造にほりさげ、コアイメージを捉えて、語源的に意味を説明する方法である。ただし意味は古典の文脈から知ることができる。文脈がなければ意味はない。
貸は次文脈で使われている。
 原文: 出公粟以貸。
 訓読:公粟を出だして以て貸す。
 翻訳:公室の穀物を出して人に貸しつける――『春秋左氏伝』襄公二十九年
貸は返す約束で物を一時的に与える、つまり「かす」の意味で使われている。これを古典漢語ではt'әg(呉音・漢音でタイ)という。これを代替する視覚記号しとして貸が考案された。
貸は「代(音・イメージ記号)+貝(限定符号)」と解析する。代は「∞ の形」や「⇄の形」のイメージから、「A⇄Bの形にAとBが入れかわる」というイメージを示す記号である(1201「代」を見よ)。貝は貨幣や財貨と関係があることを示す限定符号。したがって貸は貸し手(A)と借り手(B)の間で金銭の持ち主が入れかわる状況を暗示させる図形である。Aの側に視点を置けば「かす」だが、Bに視点を置けば{かりる」である。貸は「かす」と「かりる」の両方を意味したが、貸を「かす」に専用し、「かりる」に借を使うようになった。ただし借にも「かす」と「かりる」の意味があった。