「沢」
正字(旧字体)は「澤」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は睪。玉篇に“水停まることを澤と曰ふ”、風俗通に“水草交錯す”とあり、沼や湖の水草の生えているところ、“さわ” の意味とする」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが特徴であるが、本項では会意的に説明できず、字源を放棄している。
澤は語史が古く、次の用例がある。
 原文:彼澤之陂 有蒲與荷
 訓読:彼の沢の陂(つつみ)に 蒲と荷有り
 翻訳:あの沢の堤に ガマとハスが生えている――『詩経』陳風・沢陂
沢は湿地帯、さわの意味である。これを古典漢語ではdăk(呉音でヂヤク、漢音でタク)という。これを代替する視覚記号しとして澤が考案された。
澤は「睪エキ(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。睪については1206「択」で詳述したから簡単に触れる。睪は「A-B-C-(数珠つなき)の形に次々につながる」 というイメージを表す記号である。このイメージは連鎖ではなく●●●の形(点々と続く形)、つまり「間を置いて点々と並ぶ」というイメージにも転化する。湿地帯はおおむね水たまりが点々と散在する地形なので睪に水を添えた澤で表すのである。正確に言うと「さわ」を意味するdăkという語を澤という字で表記する。