「諾」

白川静『常用字解』
「形声。音符は若。若はᄇ(祝詞を入れる器)の前で、巫女が両手をあげて舞いながら祈り、神託を受けてうっとりとした状態にあることを示す。神託によってその祈ることが承諾される(聞き入れられる)ことを諾という。諾とは神が“うけがう、ゆるす”の意味であった」

[考察]
若の字解の疑問については776「若」で述べた。若の字形がなぜ「神託を受けてうっとりとした状態」なのか。祈りが神託によって承諾されるとは何のことか。諾に「神がうけがう、ゆるす」という意味があるのか。こんな意味はありそうにない。古典における諾の用例を見よう。
 原文:莫敢不諾 魯侯之若
 訓読:敢へて諾せざるは莫く 魯侯に之れ若(したが)ふ
 翻訳:[異民族は]素直に承知せぬものはなく 魯の殿様に従った――『詩経』魯頌・閟宮
諾はよろしいと承知する意味で使われている。これを古典漢語ではnak(呉音でナク、漢音でダク)という。これを代替する視覚記号しとして諾が考案された。
諾は「若ジャク(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。若については776「若」ですでに述べているが、もう一度振り返る。若は「叒ジャク(音・イメージ記号)+口(限定符号)」と解析する(篆文では「艸+右」に変形)。叒は女性の姿態から発想された。これは跪いた女性が両手で髪を梳かしている姿である。だから「柔らかい」というイメージを表す記号になる。若は物柔らかに言いなりになる状況を暗示させる図形である。この意匠によって、若は「言いなりに従う」というイメージがあり、「従う」という意味も実現される。かくて諾は相手の言いなりになって素直に従う状況を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつnakを表記するのである。