「単」
正字(旧字体)は「單」である。

白川静『常用字解』
「象形。 楕円形の盾の形。上部に二本の羽飾りをつけている盾の形である。もと軍事に関する語で、古く一隊を単、三単を軍とした。それで単一・単行・単身のように、“ひとり、ひとつ”の意味に用いる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。單は盾の形→一隊→ひとり・ひとつの意味になったという。
従来、單の字源は諸説紛々で、定説はない。例えば蟬、罕(鳥獣を捕らえる網)、干(ほこ)、盾、旗、車などと見る説がある。字形は何とでも見える。字形から意味は出て来ない。
白川は盾の説だが、盾が軍事と関係があるから兵隊を数える単位と見たのであろう。確かに『詩経』大雅・公劉には「其の軍は三単」の詩句がある。この單には異説が多く、『漢語大詞典』では「輪番更休」の意味としている。中井履軒(江戸期の漢学者、「詩経雕題略」という優れた著述がある)は、單は隻のような意味で、衆を分けて三隊にするこという。この説はまともである。しかし単位の助数詞から「ひとつ」の意味が出たというのは考えにくい。逆に隻のように「ひとつ」の意味から助数詞の用法が出たというのが理屈に合う。
ではなぜ「單」が「ひとり・ひとつ」の意味なのか。字源でははっきりしないので、語源を考える。單の語源を明らかにしたのは藤堂明保である。藤堂は單のグループ(單・禅・簞・蟬・弾・憚・戦・殫)と坦・扇・展・輾を同じ単語家族にくくり、TANという音形と、「平らか」という基本義があるとした(『漢字語源辞典』)。 
「平ら」というコアイメージが「ひとつ」の意味を実現させる動機となっている。「平ら」は平面の状態である。でこぼこなどがない状態、のっぺらぼうで起伏のない状態、一様で代わり映えのない状態 である。これから「込み入っていない」「平板である」という意味が実現されるのは容易に見て取れる。また「平ら」は複雑さがない状態でもあるから、単一である、「二つとなくひとつだけ」の意味の発生も読み取れる。
これだけではない。「平ら」は何もない状態でもある。存在するものを消滅させることを日本語でも「平らげる」というように、單には「尽くす」「無くす」という意味も生まれる。これはすでに『詩経』に「厥(そ)の心を單(つ)くす」(王は心を一生懸命に尽くします)という用例がある。このように「平ら」のコアイメージから「ひとつ」「平板で込み入っていない」「平らげる(尽くす)」という意味が実現されるのである。歴史的には三単のように分けた部隊を数える助数詞や、「尽くす」の意味が先に現れるが、論理的な意味展開としてはひとつ→助数詞→代わり映えがない→尽きるの順と考えてよい。なお「尽きる」の意味は後世では殫と書かれる。
最後に字源に戻ると、單が獸に使われているのが参考になる。單は狩猟工具と考えられる。これについては828「獣」、1084「戦」で既に述べたが、網に似た狩猟用具の図形である。ただし実体に重点があるのではなく、形態や機能に重点がある。網のような形態から「平ら」「薄く平ら」というイメージを表すことができる。薄いものはひらひら(ぶるぶる)と振動するから、「ひらひらと震え動く」というイメージに転化する。このコアイメージおよびそのイメージ展開から單のグループの字がすべて説明できる。