「胆」
正字(旧字体)は「膽」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は詹たん。胆はその略字で音符は旦。説文に“肝を連ぬるの府なり”とあって、肝臓の右に位置し、胆汁を分泌する器官である“胆囊、きも” をいう」

[考察]
白川漢字学説は形声も会意的に説くのが特徴であるが、本項では詹から会意的に説明できず、字源を放棄している。
日本語で「肝っ玉」「肝が太い」などというが、正しく書くなら「胆っ玉」「胆が太い」である。肝と胆は違う。肝は五臓の一つであるが、胆は六腑の一つである。五臓と六腑は働きが違うとされる。五臓には精神が宿り、六腑には体力・活力の源が貯えられているという。勇気は精神にも関わるはずだが、専ら六腑のうちの胆がそれの担い手とされているので、胆力などの言い方がある。
膽(胆)は擔(担)と共通の記号が含まれている。担の字源を説明する際に詹について述べたが、もう一度振り返ってみる。
『説文解字』には「詹は多言なり」と意味を説き、また『荘子』には「小言は詹詹センセンたり」という用例がある。これは「詰まらない言葉(言論)は何度も繰り返す」といった意味。詹のイメージは「多くのものが重なる」と捉えることができる。物が多く重なった状態だから、「(上から下に力が加わって)ずっしりと重い」「ずっしりと垂れ下がる」というイメージにも展開しうる。
詹の字源は「⺈(=人)+厂(がけ、屋根)+八(分かれ出る符号)+言」と分析する。人が高い所に登って、下に向けて言葉を発する情景を設定した図形と解釈する。下に届かせるため何度も言葉を重ねて発する状況を暗示している。この図形的意匠によって「多くのものが重なる」というイメージを表しうる。上記の通り「↓の形に重く垂れ下がる」「ずっしりと重い」というイメージにも転化する。
膽は「詹セン(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」と解析する。詹は「ずっしりと重い」というイメージがあり、これは「重みをずっしりと受け止めて支える」というイメージに展開する。これは担(荷物をかつぐ)のコアイメージでもある。かくて膽は体力や気力をずっしりと受け止めて支える器官を暗示させるのである。これによって六腑の一つである胆囊を意味する古典漢語tamを表記するのである。