「淡」

白川静『常用字解』
「形声。音符は炎。説文に“薄き味なり” とあり、味の濃淡をいうのがもとの意味である。味の“うすい”の意味」

[考察]
白川漢字学説は形声も会意的に説くのが特徴であるが、本項では会意的に説明できず、字源を放棄している。
まず古典における淡の用例を見る。
 原文:道之出口、淡乎其無味。
 訓読:道の口を出づるは、淡乎として其れ味無し。
 翻訳:道[宇宙の根源]が言葉に出されるときは、あっさりとして味がない――『老子』第三十五章
淡は味が薄い意味である。これを古典漢語ではdam(呉音でダム、漢音でタム)という。これを代替する視覚記号しとして淡が考案された。
淡は「炎(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。炎は火を二つ重ねた形で、「ほのお」を表す。しかし実体に重点があるのではなく形態・機能に重点がある。炎は火の先端がめらめらと揺れながら燃えることから、「薄っぺらなものがゆらゆらする」というイメージがある。視覚的イメージは触覚や味覚のイメージにも転化する。これは共感覚メタファーであり、言語における転義現象を引き起こすレトリックの一種である。したがって淡は液体の味において濃厚さがなく薄っぺらな感じである状況を暗示させる。この図形的意匠によって、味が薄いの意味をもつdamを表記する。