「鍛」

白川静『常用字解』
「形声。音符は段。段は粗金を打ってきたえる形で、鍛のもとの字。“きたえる、うちきたえる、たたく”の意味に用いる」

[考察]
この説は肯定も否定もできないが、段の左側が粗金の形だということ(1232「段」の項)に無理がある。なぜ粗金なのか分からない。段々になったものを表しているというのが素直である。鍛は段のコアイメージに由来する語である。
鍛の語史は非常に古く次の用例がある。
 原文:鍛乃戈矛。
 訓読:乃(なんじ)の戈矛を鍛へよ。 
 翻訳:お前たちのほこを鍛えなさい――『書経』費誓
鍛は金属をきたえる意味である。これを古典漢語ではtuan(呉音・漢音でタン)という。これを代替する視覚記号しとして鍛が考案された。
「きたえる」とは金槌などを上から打ち下ろして金属をたたく行為である。だから「上から下にとんとんとたたく」というのがtuanのコアイメージと考えてよい。これを段という記号を用いて、「段(音・イメージ記号)+金(限定符号)」を合わせて鍛とし、tuanを表記するのである。では段は「上から下にとんとんとたたく」というイメージをもっているだろうか。
詳しくは1232「段」で説明するが、段は階段の段(きざはし)である。きざはしは下から上にのぼっていくための装置であるが、視点を変えれば上から下に下っていくものでもある。だから「上から下に下がる」というイメージを表すことができる。段の用途は足をとんとんと踏み下ろして下ってくるから、「とんとんとたたく」というイメージも含まれている。段は「上から下にとんとんとたたく」というイメージをもつと言える。きざはしはduan(ダン)であるが、イメージの類似性から、「きたえる」ことをtuanという類似の音で呼び、鍛という視覚記号が生まれたのである。