「段」

白川静『常用字解』
「会意。殳は杖のような長いほこを手に持つ形で、打つの意味がある。Aは粗金の形で、粗金を打ってきたえることを段といい、段は鍛のもとの字である。粗金の形は層をなしているので、層のあるもの、層に分かれているものを、“だん” という」
A=「段-殳」(段の左側)

[考察]
なぜA(段の左側)が粗金なのかさっぱり分からない。金属の形には見えない。鍛が金属を鍛える意味だから、段も金属と関連づけて、段の左側を粗金としたのであろう。
意味の展開もおかしい。なぜ粗金から「層のあるもの、段々」の意味が出るのか。粗金は層をなすものだろうか。意味の展開に必然性・合理性がない。
古典における段の用例を見てみよう。『周礼』考工記に段氏という職人が出ており、これは鋳造技術者とされている。それより古く『詩経』大雅・公劉に「厲を取り鍛を取る」(砥石・鎚を切り出した)とあり、鍛は打たたくための石の意味で使われているから、段に「打ち叩く」の意味があったと考えられる。階段・段落などの意味は後世に出現する。この意味はなぜ生まれたのか。これを考える。
段の語源については『釈名』(後漢、劉熙撰)に「段は断なり。分けて異段と為すなり」とあり、段と断を同源とする。段には「上から下に打ち下ろしてたたく」というイメージと、「切れ目を入れて分ける」というイメージがある。図示すると↓の形と、▯↓▯の形である。
次に字源を見る。金文は「厂(がけ)+二+殳(打つ・たたく)」を合わせた字形で、崖や斜面に切れ目(段々)をつける情景を設定したもの。篆文では「厂+二」がA(段の左側)に変形した。だから「A(イメージ記号)+殳(限定符号)」となった。したがって段はとんとんと上から下にたたいて切れ目をつける情景と解釈できる。この行為の前半に視点を置くと「とんとんと上から下にたたく」というイメージ、後半に視点を置くと「一段一段と切れ目をつける」というイメージになる。前者から鍛(きたえる)が実現され、後者から物事の一区切りの意味が実現される。
以上によってなぜ段落や階段の意味に転じたかの理由が明らかになった。言葉の内的な論理構造(意味構造、深層構造)によって意味は展開するのである。粗金が層をなしているからという外的な理由によるのではない。