「断」
正字(旧字体)は「斷」である。

白川静『常用字解』
「会意。 㡭けいは織機にかけた糸を二つに断ち切っている形。斤はその糸を断ち切った斤おの。糸を断ち切ることを断といい、のちすべて“たつ、たちきる、きる”に意味に用いる」

[考察]
織機にかけた糸をなぜ断ち切るのか、よく分からない。また断は「糸を断ち切る」の意味だろうか。これは字形の解釈であって意味ではない。糸は意味素に入らないだろう。
字形の解析にも問題がある。篆文を見ると㡭ではなく𢇍(㡭の鏡文字)になっている。𢇍は絶の古文(異体字の一つ)である。これが古い字体で、㡭はこれから派生した字で、繼(つぐ、つなぐ)に使われている。「断つ」「断つ」と「継ぐ」はちょうど反対の意味である。鏡文字の役割は反対の意味・イメージを作ることにある。そういうわけで斷は𢇍から解釈すべきである。
𢇍は幺を上に二つ配置し、下に二つ配置し、それの中間にᖵ(=刀)を差し入れた図形である。この意匠によって、糸を断ち切る様子を暗示させる(438「継」、1068「絶」を見よ)。斷の左側は楷書では㡭になっているが、篆文では𢇍になっている。斷は『詩経』に出ており、語史が古い。
 原文:七月食瓜 八月斷壺
 訓読:七月瓜を食ひ 八月壺コを断つ
 翻訳:七月にはウリを食べ 八月にはヒョウタンの蔓を切る――『詩経』豳風・七月
斷は断ち切る意味で使われている。これを古典漢語ではduan(呉音でダン、漢音でタン)という。これを代替する視覚記号しとして斷が考案された。
斷は「𢇍(イメージ記号)+斤(限定符号)」と解析する。𢇍は上記の通り絶の古文であり、「切れ目をつける」というイメージを表すため、糸を断ち切ることを暗示させる図形が工夫された。斤は斧などの刃物と関係があることを示す限定符号。したがって斷は斧を振り下ろして糸を断ち切る情景を設定した図形である。これは図形的意匠であって意味そのものではない。意味は文脈で実際に使われる意味、上記のように「断ち切る」という意味である。