「壇」

白川静『常用字解』
「形声。音符は亶たん。亶は建物の基礎である土壇の上に廩倉のある形で、壇のものと字である。説文に“祭りの壇場なり”とあり、 祭場として土を盛り上げて築いた“だん”をいう」

[考察]
亶は建物の基礎で、壇の原字としているが、一方では説文を引いて祭壇だとする。食い違いがある。古典ではどんな意味で使われているかを尋ねてみよう。
 原文:桓公乃卽壇而立。
 訓読:桓公乃ち壇に即(つ)きて立つ。 
 翻訳:桓公は壇に近づいて(その上に登って)立った――『管子』軽重乙
壇は祭りをするために土を高く盛り上げた建造物である。これを古典漢語ではdan(呉音でダン、漢音でタン)という。これを代替する視覚記号しとして壇が考案された。
壇が「亶(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。亶は「旦(音・イメージ記号)+㐭(イメージ補助記号)」と分析する。旦は「中から外に現れ出る」というイメージがある(1218「但」を見よ)。内部から平面や表面に現れ出るので、「平ら」というイメージも表すことができる。平坦の坦はこのイメージである。㐭は米倉の形で、稟・廩の原字。米倉は内部に米を詰め込んだものだが、詰め切れないで外にはみ出ることもある。これは米倉にたっぷりと詰まっていることを暗示させる。亶の図形的意匠は、米倉にしまわれた物が表面に現れ出て見える情景である。この意匠によって「有り余るほどたっぷりある」「厚く豊かにある」というイメージを表す記号になる。かくて壇の図形的意匠も明らかになる。土をたっぷりと厚く積み上げる情景である。もちろんそんな意味を表すのではない。土を高く盛り上げて造った建造物である。その用途はその上に登って天などを祭る儀式を行うことにある。だから上面を平らにする必要がある。壇という語には平面のイメージと、面積が分厚いというイメージがある。この両者を同時に図形として表したのが亶であった。