「地」

白川静『常用字解』
「形声。音符は也。もとの字は墜に作り、隊と土とを組み合わせた形。隊は阜(神が天に陟り降りするときに使う神の梯の形)の前に、犠牲の獣である㒸をおく形で、神の降りたつところを示す。土は土を饅頭形にまるめて台上におく形で、それを土地の神とする。墜は神の降りたつところに土地の神を祭り、神の降りたつところという意味であった。墜がのちに墜落の意味となり、墜に代わる形声の字として地が作られた」

[考察]
字形の分析にも意味の取り方にも疑問がある。 地を墜と同字とするのが最大の疑問。『説文解字』に地の籀文として墬が出ている。墬と墜は似ていて紛らわしいが、墬の右上は彖であり、墜の右上は㒸である。音も違う(墬はチ、墜はツイ)。この二字はよく間違われるが、白川も混同している。
墜の字解の疑問については該項で述べる。
結局白川説では地の字源は明らかにされていない。
古典で地の用例を見てみる。
 原文:乃生女子 載寢之地
 訓読:乃ち女子を生む 載(すなは)ち之を地に寝(い)ねしむ
 翻訳:女の子が生まれたら 地面に寝かせる――『詩経』小雅・斯干
地は大地・土地の意味で使われている。物質としての「つち」ではなく「つち」で形成されている空間である。大地・陸地である。これを古典漢語ではdieg(呉音でヂ、漢音でチ)という。これを代替する視覚記号しとして地が考案された。
地は「也(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。也については707「施」、1176「他」で述べたが、もう一度振り返る。
也はヘビを描いた図形である。蛇の異体字に虵がある。ヘビの形に它と也があり、後者は地・他・池・馳・弛・施などのグループを構成する。ヘビという実体を用いた字は蛇と虵で、ほかは形態や機能を捉えたイメージが用いられる。ヘビは腹這いして移動するので、「ずるずると横に延びていく」「うねうねと曲がりくねる」というイメージを也で表すことができる。(以上は707「施」の項)
地に使われる也はまさにこのイメージである。土(つち)がずるずると横に延びて形成された空間が地である。陸地の場合はうねうねと曲がりくねった形状をしている。
白川も他に含まれる也は它と同じで蛇の形としている。しかし実体しか念頭になく、コアイメージという概念をもたないので、蛇と大地は結びつかないと考えたか、字源を放棄するほかはなかった。