「畜」

白川静『常用字解』
「会意。玄は糸たばを拗った形。田は染汁を入れた鍋の形。染汁の鍋に糸たばを漬けて染色することを畜といい、長い間漬けて色を深くするので、“つみかさねる、とどめる、たくわえる” の意味となる」

[考察]
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法である。玄(糸束)+田(染め汁を入れた鍋)→染め汁の鍋に糸束を漬けて染色するという意味を導く。
字形の解剖に疑問がある。田はどう見ても「染め汁を入れた鍋」には見えない。臆測というしかない。また意味の展開に疑問がある。糸束を染色する→長い間漬けて染色する→積み重ねる・とどめる・蓄えると意味を展開させるが、この意味展開には必然性がない。
畜は古典でどのように使われているかを見てみよう。
①原文:其畜宜牛馬。
 訓読:其の畜は牛馬に宜し。
 翻訳:その土地の家畜は牛馬が適している――『周礼』夏官・職方氏
②原文:拊我畜我
 訓読:我を拊(な)で我を畜(やしな)ふ
 翻訳:[父母は]私をかわいがり、大切に育ててくれた――『詩経』小雅・蓼莪

①は家畜の意味、②は大事にかばって養い育てる意味で使われている。古典漢語では①をt'iok(呉音・漢音でチク)、②をhiok(呉音・漢音でキク)という。これらを代替する視覚記号しとして畜が考案された。
畜の最初の意味が家畜であることは異説がない。図形もこれに合うように作られている。畜は「玄+田」と分析する。玄は垂れた糸の形である。細い糸でもあるが、紐でもある。牽引の牽では紐を表す記号として玄が使われている。田はいうまでもなく田んぼの田である。農耕と関係がある。したがって畜は紐でつないで農耕に従わせるものを暗示させる図形と解釈できる。
家畜は大切に養うものである。だから②の意味を派生する。ただし音を少し変えて別語とした。