「虫」
旧字体は「蟲」である。

白川静『常用字解』
「会意。虫が三つ集まっている形。 虫は蛇などの爬虫類の形、また蝮をいう。䖵は説文に“蟲の総名なり”とあり、蟲は昆虫のように密集する小さな“むし”をいう」

[考察]
まむしはhiuər(虫キ・虺キ) といい、むしはdiong(蟲)といい、音声上も意味上もつながりがない。ただし図形上はつながりがある。まむしの類を念頭に置いて「虫」を三つ重ねた字が蟲である。英語でむしを意味するwormは蛇が原義というが、これと蟲の字源はよく似ている。ただし蟲はまむしの意味はない。
古典における蟲の用例を見る。
①原文:蟲飛薨薨
 訓読:虫飛んで薨薨コウコウたり
 翻訳:虫がブンブン飛び交っている――『詩経』斉風・鶏鳴
②原文:蘊隆蟲蟲
 訓読:蘊隆虫虫たり
 翻訳:暑気が盛んにむんむんする――『詩経』大雅・雲漢

①は一般にむしの意味、②は数が多い、たくさん集まるという意味で使われている。②の意味があることから逆に蟲の語源がはっきりする。
段玉裁は「蟲は衆のごときなり」と語源を説いている(『説文解字注』)。むしは「数が多い」というイメージから衆と同源としてdiongと名づけられた。おそらく集団発生するバッタ(トノサマバッタ)を螽シュウというのも同じ語源であろう。数が多く、集団的に発生・繁殖するという生態的特徴からむしや昆虫をdiongと名づけ、その視覚記号として蟲が考案された。記号を三つ重ねて「数が多い」というイメージを表すのは漢字の造形法の一つの特徴である。品・森・众(衆)・卉・垚・淼・焱・犇・麤・磊・轟・雥などがその例。