「宙」

白川静『常用字解』
「形声。音符は由。由は瓢簞の類の実が熟して溶け、殻の中がからっぽになった形で、宙は“ひろい、ひろいもの” の意味に用い、宇宙のようにいう」

[考察]
字形の解剖にも意味の取り方にも疑問がある。由は殻が空っぽになった瓢簞には見えない。だいたい瓢簞は実が熟したら殻の中が空っぽになるだろうか。実をくり抜いたものがいわゆる瓢簞(容器としてのひょうたん)ではなかろうか。また「空っぽ」から宙の意味を「広い」とするが、こんな意味は宙にはない。また宀の説明がない。
『説文解字』では舟や車が到り着く所というが、終点(到着地点)の意味か。用例がないので分からない。段玉裁は棟が本義だという(『説文解字注』)。次の用例がある。
 原文:燕雀佼之、以爲不能與之爭於宇宙之間。
 訓読:燕雀之を佼(あなど)り、以為(おも)へらく、之と宇宙の間に争ふ能はず。
 翻訳:燕と雀はこれ[鳳凰]をばかにしてこう思った。こいつとは屋根と棟の間で競えないね――『淮南子』覧冥訓

宇宙という言葉はもともと建物と関係があり、宇は屋根、宙は棟木のことである。
宙は由にコアイメージの源泉がある。由については745「軸」で触れている。
由の字源については諸説紛々で定説はないが、カールグレン(スエーデンの中国語学者)が、ある範囲から出ていく図形で、それによって「~から出ていく」ことを示したと解釈したのが比較的良い。由は何かの実体を表すのではなく、ある区画(曰)から上方に縦棒(|)が抜け出る状況を示す象徴的符号と解したい。この意匠によって、「ある所・範囲を通って出てくる」「通り抜ける」というイメージを示す記号になりうる。軸は車の車輪と車輪の間を通って両端が抜け出た心棒を表す。(745「軸」の項)
このように由は「通り抜ける」というイメージがある。通っていく方向は水平方向でも垂直方向でも構わない。棟木は屋根を水平方向に通っている。だから「由(音・イメージ記号)+宀(限定符号)」を合わせた宙によって、棟木を意味するdiogという古典漢語を表記した。
広大な空間というのは転義である。宇は⁀の形をした屋根の意味で、これを延長させた(あるいは⁀の形をした)空間を宇という。 宙は→の形に突き抜けるというイメージから、↑の形に上方に限りなく突き抜ける空間の意味に転じる。宇と宙を合わせて、限りなく広大な空間の意味になった。