「鋳」
正字(旧字体)は「鑄」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は壽。説文に“金を銷かすなり” とあり、銷かして鋳込むの意味とする。“いる、いこむ”の意味に用いる」

[考察]
形声も会意的に説くのが白川漢字学説の特徴であるが、本項では壽からの説明がない。なぜ「壽+金」で「いる」の意味が出るのか分からない。
まず鋳の意味を確かめる。古典に次の用例がある。
 原文:今大冶鑄金、金踊躍曰、我且必爲莫邪。
 訓読:今大冶金を鋳る、金踊躍して曰く、我且(まさ)に必ず莫邪バクヤと為らんとすと。
 翻訳:今名工が金を鋳ている。金は踊り上がって言った、“きっと名剣になるぞ”――『荘子』大宗師
鋳は金属を鋳るという意味。金属に焼きを入れて打ち叩くのは鍛であるが、鋳は金属を溶かして型に流し込むことである。「溶かす」ことと「流し込む」ことの動作が含まれている。後者に焦点を置くと、「ずるずると長く延びる」というイメージがある。これを表す記号が壽である。
壽は田の畦から発想された記号。範疇の疇(畦の意)の原字に老を添えたのが壽である。畦は「うねうねと長く延びる」というイメージがある。この空間的イメージを時間に転用すると、寿命が長く延びた老人、つまり「長生き」の意味となる。この壽が再び空間的、物理的なイメージに戻されたのが鑄である。溶かした金属をずるずると型に流し込むことを表したのである。