「貯」

白川静『常用字解』
「形声。音符は宁。宁は物を貯蔵するための箱の形で、たくわえるの意味がある。貝は子安貝で、貴重なものであったので貨幣として使用された。宁に貝をそえた貯は“たくわえる”の意味となる」

[考察]
形声も会意的に説く白川漢字学説に従えば、宁は「たくわえる」の意味、貝は貨幣の意味だから、貯は「貨幣をたくわえる」の意味になりそうなもの。
字形から意味を導くとそうならざるを得ない。白川漢字学説には言葉という視座がないから、なぜ「たくわえる」をチョといい、貯と書くのかという発想がない。
貯が「たくわえる」の意味であることは古典の用例から分かることである。
 原文:毋貯粟、毋禁材。
 訓読:粟を貯ふる毋(な)かれ、材を禁ずる毋かれ。
 翻訳:[独占するために]穀物をためこむな、材木の伐採を禁じるな――『管子』大匡
貯は物をたくわえる意味で使われている。これを古典漢語ではtiag(呉音・漢音でチョ)という。これを代替する視覚記号しとして貯が考案された。
まず語源であるが、tiagという語は著・儲などと同源で、「一所に定着する」というコアイメージをもつ。一か所にいつまでも置いておくことがtiagのイメージである。これが物をたくわえる行為である。
上記のように貯は使われた。なぜこのような表記が生まれたのか。ここで字源の話になる。貯は「宁(音・イメージ記号)+貝(限定符号)」と解析する。宁は櫃(ひつ)のような器具の図形と考えられる。中に物を入れておく機能があるから、この記号で「一所にじっと定着させる」というイメージを表すことができる。貝は財貨や貨幣と関係があることを示す限定符号。限定符号は意味の範疇や領域を指定する働きのほかに、図形的意匠を作るための場面設定の働きもある。財貨や貨幣に関わる場面を設定したのが貯の図形で、財貨や貨幣を一定の所にじっと定着させておく状況を暗示させる。これが貯の図形的意匠である。この意匠によって「(物を)たくわえる」という意味をもつtiagを表記する。
以上、言葉という視点から貯の成立を述べた。