「丁」

白川静『常用字解』
「象形。釘の形。丁が釘のもとの字である。十干の第四で、“ひのと” という。丁壮・丁年のように若者の意味に用いる」

[考察]
丁が釘の形というのは定説。しかし釘の意味では使われず十干の名に使われる。釘と十干に何の関係があるのか。なぜ若者の意味にも使われるのか。肝心の説明がない。
白川漢字学説には言葉という視点がなく、ただ字源を述べるだけである。意味の探求はほとんどない。意味とは「言葉の意味」であって、言葉を抜きにしては考えられない。
釘と十干の関係、また若者の意味がある理由について考えてみる。
漢字の造形原理の特徴は実体に重点がなく、形態や機能に重点を置くということがある。丁は釘という実体に重点があるのではない。実体に重点があれば丁は「くぎ」という意味になるが、「くぎ」の意味では使われない。実体ではなく形態・機能の特徴から意味が形成されるのである。
釘の形態・機能とは何か。形態的には「T形をなす」「T形に立つ」というイメージがある。機能的には物に直角に打ちつける。この場合は「T形に打つ」「T形に突き当たる」というイメージである。逆に言えばこれらのイメージをもつ言葉がteng(呉音でチヤウ、漢音でテイ)であり、これを表記するために釘を模した「丁」という図形が工夫されたわけである。
さて殷代では日付を記すための循環的序数詞があった。日付は数詞で表すのが簡単だが、理由は分からないが、特別の序数詞が作られた。漢数詞(漢数字)は数量を数えることと順序を表すことが同一で区別がない。つまり英語のoneとfirstのような区別がない。だから順位を表すには「第~」「~位」などの別の補助漢字が必要になる。この不便さも特別の序数詞の創造に影響があったのかもしれない。それはともかく、循環的序数詞が二種類作られた。十干と十二支である。これを組み合わせると六十進法の序数詞ができる。ただし循環的であって、永久な順序は表せない。一位から始まると、六十位で打ち止めで、またもとに戻ってしまう。六十一位と一位が同じ記号になってしまい、区別がつかない。日付はこれで十分である。月日はもともと循環的であり、日付を二か月ごとに循環させればよいからだ。
丁は十干の一つの順位記号である。第四位を丁という。英語のfourthに当たるから丁は立派な序数詞である。漢数字は一二三・・・十・百・千・万などだけだと考えるのが常識だが、十干・十二支も漢数字なのである。そのほかに小数を表す漢数字もある。
本題に戻る。なぜ丁は第四位の序数詞なのか。これを説明するには甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸を体系的に説明する必要がある。これだけで一冊の本ができる。ここでは簡単になぜ丙の次かを説明する。
十干・十二支は植物の生長過程を象徴として順位記号が作られたと推測される。丙は「↲↳の形に両側に張り出る」というイメージをもつ。これは植物の芽が分かれ出る過程の象徴になる。丁は上で述べたように「T形に立つ」というイメージがある。だからこれは植物の茎がT形に伸びる過程の象徴になりうる。このようにして丙の次の順位記号として丁が置かれた。
次はなぜ若者の意味があるのかの検討に移る。もっとも若者という意味ではなく、「元気盛りの年頃」 という意味である。丁には上記の通り「T形に突き当たる」というイメージもある。丁を「あたる」と読むことがある。突き当たる、ぶつかるという意味。丁憂は憂いにあたる(父母の喪にぶつかる)という意味。このようにある特別な時間や機会にぶつかることを丁という。かくて人生の中でいちばん元気のある時期にぶつかっていること、つまり元気盛りの年頃という意味が生まれる。これが丁年、丁壮の丁である。