「長」

白川静『常用字解』
「象形。長髪の人を横から見た形。長髪であるから“ながい、ながさ、たけ”の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。長髪の人の長髪から「ながい」の意味になったという。また社長などの長の意味は、「長髪の人は老人であり、氏族の指導者としてたっとばれたので、“かしら、たっとぶ”の意味となった」という。
長髪の人→氏族の指導者→かしらという意味展開に必然性があるだろうか。長髪の人が必ずしも指導者とは限るまい。この意味展開は必然性がない。
まず古典から長の用例を見よう。
①原文:道阻且長
 訓読:道は阻にして且つ長し
 翻訳:道は険しく長々と続く――『詩経』秦風・蒹葭
②原文:克長克君
 訓読:克(よ)く長たり克く君たり
 翻訳:十分に長者・君主の資格がある――『詩経』大雅・皇矣

①は空間的にながい意味、②は長老・おさ・かしらの意味で使われている。古典漢語では①をdiang(呉音でヂヤウ、漢音でチヤウ)、②をtiang(呉音・漢音でチヤウ)という。これを代替する視覚記号しとしてともに長が考案された。①と②は音が少し違い、意味はかなり違う。しかし無関係ではない。②は①からの展開である。
長は白川のいう通り長髪の人の図形。長髪に視点を当てて「空間的に長い」「長く伸びる」というイメージを表そうとする工夫である。長髪の人に重点があるわけではない。人にこだわると氏族の長の解釈に陥ってしまう。
空間的イメージが時間的イメージに転用されるのは単に漢語だけの特徴ではなく、広く言語に見られる現象である。長の「空間的に長い」は「時間的に長い」に転義する。長期・長寿の長はこの意味。長い年月を生きた人の意味にも転じるのは見やすい。長者・長老の意味はこれ。人を表す場合は音がtiangに変わって別語になる。もちろん語源的には連続性がある。おさは年齢的には上のものであるが、年月の長短に関わりなく、位や階級が上位、トップ、かしらの意味にも転じる。これが学長・社長の長。
このように「空間的に長い」から意味が展開し、長い、おさ、かしらという意味になった。そのほかに動詞的な用法もある。成長、消長、増長などがある。これも「空間的に長い」「長く伸びる」というコアイメージからの展開である。