「張」

白川静『常用字解』
「形声。音符は長。説文に“弓の弦を施すなり” とあり、弓の弦をはるというのがもとの意味で、のちすべて“はる、はりひろげる、ひろげる、ひらく”などの意味に用いる」

[考察]
1280「帳」と同様に、長からの説明がない。形声も会意的に説くのが白川漢字学説の特徴であるのに、それができていない。要するに字源を放棄したことこなる。
では張と長はどんな関係があるのか。言葉という視点に立つのが重要である。つまり語源を考えることである。それにはまず古典における用例を調べて、意味を確かめるのが先決である。
 原文:既張我弓 既挾我矢
 訓読:既に我が弓を張り 既に我が矢を挟む
 翻訳:今ぞ我が弓を張り 今ぞ我が矢をつがえる――『詩経』小雅・吉日
張は弓を張るという意味で使われている。古典漢語ではtiang(呉音・漢音でチヤウ)という。これを代替する視覚記号しとして考案されたのが張である。
弓を張るとはどういう行為か。弦をゆはずにかけて、一端から他端をぴんと伸ばすことである。たるみがないようにぴんとまっすぐ伸ばす。ここに「まっすぐ伸ばす」というイメージがある。たるみがあると間隔が短くなるが、ぴんと伸ばすと間隔は長くなる。だから「長く伸びる」というイメージでもある。ここに長との接点がある。長は1278「長」で述べたように、「空間的に長い」「長く伸びる」というイメージを示す記号である。古人は弓をはる行為(を表す言葉)を長との同源意識からtiangと呼び、「長(音・イメージ記号)+弓(限定符号)」を合わせた張の図形を作ったのである。
ちなみに弓の弦をはずす行為は弛シという。弛は「ゆるむ」「たるむ」という意味がある。ぴんと張った状態は緊張した状態であるが、それと反対の弛は弛緩した状態をいうのである。