「頂」

白川静『常用字解』
「形声。音符は丁。丁は釘の形で、古い字形は釘の頭の平面形である。頁は頭に儀礼用の帽子をつけて拝んでいる人の姿。それで身体の最上部を頂といい、“いただき”、頭頂の平らかなの意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。丁(釘の頭)+頁(頭に帽子をつけて拝む人)→身体の最上部という意味を導く。
一見問題はなさそうであるが、丁を釘の意味に使うようになったのは六朝以後であり、しかも丁が釘の頭の形という解釈は近代になってからである。丁が釘の頭だから頂は頭の最上部という解釈は歴史に合わない。
しかし丁の成立はきわめて古く殷代に遡る。何のために丁という図形が作られたかと言えば、循環的序数詞の一つである十干の順位を表記するためである。これについては1273「丁」ですでに述べた。
丁は確かに釘を図形化したものだが、実体に重点があるわけではない。丁は「くぎ」という意味を表さない。実体ではなく形態・機能に重点を置くのである。形態的特徴から「⏉形」「⏉に立つ」というイメージ、機能的特徴から「⏉形に当たる」「直角に打つ」というイメージを示す記号となり、 このようなイメージをもつ語群(丁・打・町・頂・亭・停・成・汀)が形成される。頂もこの仲間である。頂は周代に出現し、次のように使われている。
 原文:肩高於頂。
 訓読:肩は頂よりも高し。
 翻訳:[その人の]肩は頭のてっぺんよりも高い――『荘子』人間世
頂は頭のてっぺんの意味で使われている。これを古典漢語ではteng(呉音でチヤウ、漢音でテイ)という。これを代替する視覚記号しとして頂が考案された。
頂は「丁(音・イメージ記号)+頁(限定符号)」と解析する。丁は上記の通り「⏉形」「⏉に立つ」というイメージを表す記号である。頭のてっぺんは頭や顔に対して(頭部のうちで)⏉の形を呈している。だから丁のグループとの同源意識からtengといい、丁をもとにして頂という図形が工夫されたのである。頁は単に頭部と関係があることを限定するための符号である。頁に儀礼用とか拝礼する頭などといった意味付けをすると奇妙なことになる。