「塚」

白川静『常用字解』
「形声。音符は冢。冢は犠牲として殺された去勢した犬を埋め、上に土を盛りあげた墳墓の形で、塚のもとの字である。塚は俗字で、漢代以後に使われる。冢は“つか、墓”の意味に用いる」

[考察]
冢が塚の原字というのはその通りである。しかし冢をほとんど墳墓の象形文字とするのはいかがなものか。なぜ去勢した犬を犠牲にし、墓に埋めるのか。これでは犬を祭る墓になってしまう。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。 字形の解釈をストレートに意味とする傾向がある。だから冢は犬を埋めて土を盛り上げた墓の意味となる。
日本語の「つか」は築(つ)くと同根で「土を盛り上げた所」の意味という。漢字の塚とぴったり対応する。墳墓の墳も同じ形態のはかである。
『釈名』(漢代の語源辞典)では塚の語源について「冢は腫なり。山頂の高く腫起するに似る」と述べている。当時から冢と腫の同源意識があったようである。腫は腫れ物のことで、「盛り上がる」というイメージがあり、これの根底に「重」の「重くずっしりとしている」というイメージが含まれている。盛り上がったものに重量感があるのは言うまでもあるまい。この「重くずっしりしている」というイメージがつか(盛り上がったはか)を造語する際に用いられたわけである。
ではなぜ冢(後に塚)という図形が考案されたのか。ここから字源の話になる。
冢を分析すると「勹(冖は変形)+」となる。啄・琢の右側も同じ。を分析すると「豕(ぶた)+丿」となる。これは豚の足を縛った形である。一か所を縛って動かないようにするから「一点に圧力・重力をかける」というイメージに転化する。また上から重力がかかるから「ずっしりと重い」というイメージにもなる。したがって冢は「〈音・イメージ記号〉+勹〈イメージ補助記号〉」と解析する。勹は包にも含まれており、「丸く包む」「丸く取り巻く」というイメージがある。かくて冢はずっしりと重みをかけて土を丸く盛り上げたもの(土饅頭)を暗示させる図形と解釈できる。これはまさに「つか」である。