「脹」
(注)平成22年告示の「常用漢字表」では削除されたが、後に人名漢字表で再登場。

白川静『常用字解』
「形声。音符は長。長は長髪の人を横から見た形であり、氏族の長老をいう。のち大きいの意味に用いる。脹はもと張を用い、急に腹が張って苦しむことをいう」

[考察」
長が「大きい」の意味なら腹が大きい、大きな腹の意味になりそうなものだが、張が本字であって、「急に腹が張って苦しむ」の意味だという。「大きい」の長とどんなつながりがあるのか分からない。また脹に「腹が張って苦しむ」の意味があるだろうか。単に腹がふくれるの意味だろう。
字形から意味を導くのは方法的に誤っている。意味から字形を考えるべきである。意味は語の使用される文脈から知ることができる。漢代の文献に次の用例がある。
 原文:人或嚥氣、氣滿腹脹。
 訓読:人或いは気を嚥(の)めば、気満ちて腹脹(ふく)る。
 翻訳:空気を飲み込むことがあると、気が充満して腹がふくれる――『論衡』道虚
脹は腹がふくれる意味で使われている。当時の漢語ではこれをtiang(呉音・漢音でチヤウ)という。これを代替する視覚記号が脹である。
脹は「長(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」と解析する。長については1278「長」で述べた通り「長く伸びる」というイメージがある。たるんだものが長く伸びた状態は緊張した状態である。腹がふくれると皮膚がぴんと緊張して伸びた状態になる。だから「長く伸びる」のイメージをもつ長を用いて脹が考案された。長・張・脹は同源の語である。