「腸」

白川静『常用字解』
「形声。音符は昜。説文に“大小の腸なり”とあり、“ちょう、はらわた”の意味とする」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるであるが、本項では会意的に説明できず、字源を放棄している。
腸はきわめて語史が古く、紀元前11世紀の詩の中に出ている。
 原文:自有肺腸 俾民卒狂
 訓読:自ら肺腸有り 民をして卒(ことごと)く狂は俾(し)む
 翻訳:人には自分なりの肺と腸がある それが民を狂わせるのだ――『詩経』大雅・桑柔
腸は肺とともに内臓器の一つである。またそれは精神とも関わっているとされている。「はらわた」を古典漢語ではdiang(呉音でヂヤウ、漢音でチヤウ)といい、視覚記号しとして腸が考案された。
腸は「昜(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」と解析する。昜については911「傷」、934「場」で述べているがもう一度振り返る。
昜は「日+丂(上に伸びていくことを示す符号)+彡(光が発散する形)」を合わせて、日が空高く昇る情景を設定した図形。昜は「高く上がる」「明るく四方に広がる」「平らに開ける」というイメージを表す記号になる。(934「場」の項)
太陽の陽が昜の図形化のもとにある。「高く上がる」は基本的なイメージである。移動する軌跡に焦点を置くと、空間的に距離が長くなることであるから、昜は「長く伸びる(延びる)」というイメージにも転化する。
古代では人体の知識として心臓のほかに肺もあり腸もあった。大腸と小腸を区別するのは中国医学で五臓六腑の概念が発生した後である(ちなみに大腸と小腸は六腑に入れられる)。詩経の時代では形態的に長い臓器として認識されていた。だから「長く伸びる」のイメージをもつ昜を用いて腸の図形が考案された。
漢代になると「腸は暢(伸びる・通す)なり。胃気を通暢し、滓穢を去るなり」(『釈名』)という語源説が現れている。腸の機能面から解釈したものである。