「跳」

白川静『常用字解』
「形声。音符は兆。 兆は卜兆の形で、亀の甲に熱ではじけてできたひびわれの形である。力をもって他にいどむことを挑といい、激しく躍り上がるようにとぶことを跳という」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。兆(ひびわれの形)+足→激しく躍り上がるようにとぶという意味を導く。
ひびわれは熱ではじけでできたから、「激しく躍り上がる」の意味と結びつけたのであろうが、ひびわれがはじけるからできたということに無理がある。兆(ひびわれ)から「激しく躍り上がる」の意味に展開させるのは疑問。また「力をもって他にいどむ」という挑の意味も兆と関係があるのか疑わしい。
字形から意味を導くのは無理があると言わざるを得ない。意味とは「言葉の意味」であって「字形の意味」ではない。言葉の使われる文脈から出るものである。古典における跳の用例を見て、そこから意味を知ることが先決である。
 原文:禹跳湯偏。
 訓読:禹は跳ね、湯は偏なり。
 翻訳:禹[夏の初代の王]はぴょんぴょんと飛び跳ねて歩き、湯[殷の初代の王]は半身不随であった――『荀子』非相

跳は地面を離れて飛び上がる(はね上がる)の意味で使われている。これを古典漢語ではdɔg(呉音でデウ、漢音でテウ)という。これを代替する視覚記号しとして跳が考案された。
跳は「兆(音・イメージ記号)+足(限定符号)」と解析する。兆については1276「兆」で述べた通りひび割れの形である。ただしひび割れという意味ではなく、その形状から「二つに(左右に)分かれる、離れる、割れる」というイメージを表す記号とするのである。吉と凶に分ける行為を兆(占い)という。兆のグループ(同源語群)には「二つに分ける」という共通のコアイメージがある。
上記の用例にあるように、足が地面から離れてぴょんと飛び上がる動作をdɔgといい、これが跳と表記された。空中に飛び上がる意味ではなく、一時的に地面を離れて上がるのである。日本語ではこの動作を「はねる」という。「はずみをつけてとびあがる」(『岩波古語辞典』)の意味である。