「徴」
正字(旧字体)は「徵」である。

白川静『常用字解』
「会意。彳とAちょうと攴(攵)とを組み合わせた形。彳は十字路の形である行の左半分の形で、道路の意味。攴には殴つの意味がある。Aは長髪の人の形で、長老をさす。徴は道路において、敵の長老を捕らえて殴ち、求めることを得ようとする古代の呪術を示す。長老を殴ち、長老の持つ霊の力を刺激して、その要求することの実現を求める行為を徴という」
A=徵の真ん中の字形。

[考察]
字形の解剖にも意味の取り方にも問題がある。Aという字は存在しない。これがなぜ「ちょう」という音なのか。長の音を持ってきたのか、それとも徵の音なのか。後者なら形声文字になるはず。
Aが敵の長老というのも奇妙である。敵の長老を打って、要求の実現を求めるとはどういうことか、理解し難い。
徵にそんな意味はありえない。字形から無理に意味を導いたとしか思えない。
意味とは「言葉の意味」であって「字形の意味」ではない。意味は文脈からしか知りようがない。古典における徵の用例を見るのが先決である。
①原文:齊徵諸侯而戍周。
 訓読:斉は諸侯を徴して周を戍(まも)らしむ。
 翻訳:斉国は諸侯を召し出して周を防御させた――『春秋左氏伝』僖公十六年
②原文:桓公樂之而徵燭。
 訓読:桓公之を楽しみて燭を徴す。
 翻訳:桓公は宴を楽しんで燭(明かり)を求めた――『呂氏春秋』達鬱

①は公に出ていない人を召し出す意味、②は出ていないものを公の場に出させる(取り立てる、求める)意味で使われている。これを古典漢語ではtiəng(呉音・漢音でチョウ)という。これを代替する視覚記号しとして徵が考案された。
徵は「B(テイ)(音・イメージ記号)+微の略体(イメージ補助記号)」と解析する。B([ノ+土]の形)は桯の右下と同じで、呈・聖・望では王に、廷では壬に変形する。Bについては1033「聖」で述べているがもう一度振り返る。
Bは人がまっすぐ背を伸ばして立つ姿を描いた図形で、「↑形にまっすぐ」というイメージを表す記号である。「↑形にまっすぐ」は垂直のイメージだが視点を水平に変えると「→の形にまっすぐ」「まっすぐに通る」というイメージにもなる。(1033「聖」の項)
Bは「↑の形や→の形にまっすぐ」のイメージを示す記号であるが、「まっすぐに伸びる」「まっすぐに上がる」「まっすぐに出ていく」などと言い換えることもできる。
微は「かすか」「はっきり見えない」というイメージがある。これは徵の図形化では補助的な働きをする。しかし何がまっすぐ出ていくかの何を補強するために添えられた記号であるから、これがないとどんな場面・情景が想定されているかが分からない。隠れて姿が見えないものをまっすぐに表に現し出させる情景、これが徵の図形的意匠である。
「隠れているものや内側にあるものが表や外にまっすぐに現れ出る」というイメージから①②の意味が実現される。表に出ていない人材を召し出す意味、これが徴兵・徴用の徴の意味。また、公に出ていないものや私的に持っているものを公の場に出させる意味、これが徴税・徴収の徴の意味。そのほかに、隠れた兆しが表面に現れ出る意味(徴候・性徴)、内容を示すしるしがはっきり現れる、またそのしるしの意味(特徴・象徴)にも展開する。これらの転義を白川説では説明できない。