「調」

白川静『常用字解』
「形声。音符は周。周は方形の盾の形で、盾の表面全体に模様を美しく整えて彫刻した盾である。説文に“調は龢(和)するなり”とあって、調和の意味とする。龢は楽音のととのうの意味である。“ととのう、ととのえる”の意味に用いる」

[考察]
楽音が調和することが「ととのう」の意味だというのであろう。一方では、周は「盾の表面全体に模様を美しく整えて彫刻した盾」というから、周に「整える」の意味があるというのであろうか。これについては触れていないから、説文の解釈に従ったのかもしれない。
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では会意的な説明がなされているとは言い難い。調と周はどんな関係にあるのか。言葉の深層構造に掘り下げる必要がある。これこそ形声の説明原理である。
調は「周(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。周については803「周」、1282「彫」で説明しているが、もう一度振り返る。
周を分析すると「A+口」になる。Aは囗(口ではなくくにがまえ)の中に米印を入れた形(𡇒に近い)。これは實にも含まれている。郭沫若が「田中に種植有る形」としたのが妥当である。つまり田んぼに種や苗がびっしりと播かれている(植えてある)情景である。この図形で「びっしり密着する」「びっしり行き渡る」というイメージを表すことができる。周は「A(イメージ記号)+口(場所を示すイメージ補助記号)」を合わせて、囲いの中の全体にびっしりと行き渡る状況を暗示させる。(以上、803「周」の項)
周は「全体にびっしりと行き渡って欠け目がない」「満遍なく行き渡る」というイメージを表す。稠密の稠はこのイメージ。調も同じである。調は言葉をすみずみまで行き渡らせて、全体に欠け目がないようにととのえる状況を暗示させる。この意匠によって、欠け目・でこぼこ・過不足がないように全体にそろえることを意味する古典漢語dög(呉音でデウ、漢音でテウ) を表記する。古典に次の用例がある。
 原文:決拾既佽 弓矢既調
 訓読:決拾既に佽(そろ)ひ 弓矢既に調ふ
 翻訳:ゆがけとゆごてはともにそろい 弓と矢もととのった――『詩経』小雅・車攻