「賃」

白川静『常用字解』
「形声。音符は任。説文に“庸ふなり”とあり、賃金・賃銀を払って人を使うことをいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが特徴であるが、本項では任からの説明ができず、字源を放棄している。
まず古典における用例を見てみよう。
 原文:僕賃於野。
 訓読:僕として野に賃(やと)はる。
 翻訳:奴隷として野良で雇われた――『春秋左氏伝』襄公二十七年
賃は代金を払って人をやとう意味で使われている。これを古典漢語ではniəm(呉音でニム、漢音ヂム)という。これを代替する視覚記号しとして賃が考案された。
賃は「任(音・イメージ記号)+貝(限定符号)」と解析する。任はその項で詳説するが、古典に「任は抱なり」とあるように、荷物を抱きかかえることである。妊娠の妊も胎児を子宮で抱きかかえた姿を呈する。壬は「ふくらむ・ふくれる」というコアイメージをもつ記号なので、「抱きかかえる」と「ふくらむ」にはイメージのつながりがある。 任は腹の前で荷物を抱きかかえることで、横から見ると腹がふくれた姿を呈する。これは妊と同じ姿である。このように任は「ふくらむ」と「抱きかかえる」のイメージをもつと考えてよい。
かくて賃の図形的意匠も分かってくる。貝はお金や財貨と関係があることを示す限定符号。金でもって(代金を払って)人を当方に抱え込む状況を暗示させている。これが賃の図形的意匠である。図形的意匠はそのまま意味ではないが、上記の意味が十分こめられている。