「鎮」
正字(旧字体)は「鎭」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は眞。眞は匕(死者の形)と県(首を逆さまに懸けている形)とを組み合わせた形で、不慮の災難にあって行き倒れた人をいう。行き倒れの人の怨霊は瞋いかりのために強い力を持つ霊として恐れられたので、その瞋を鎮めるために瑱みみだまを用い、祠を作ってその中に寘き、慎んで鎮魂の儀礼をした。“しずめる、しずまる、おさえる”の意味に用いる」

[考察]
字形の解剖にも意味の取り方にも疑問がある。眞を「匕+県」に分析しているが、県の下部は「小」であって明らかに眞の下部とは違う。これについては967「真」で指摘している。字形分析がそもそも間違っているから、その解釈の妥当性も疑われる。行き倒れの人に対する鎮魂儀礼という解釈には何の証拠もない。鎮は金偏がついているのに、これの説明がないのも変である。
古典における鎮の用例を見るのが先決である。
①原文:白玉兮爲鎭
 訓読:白玉を鎮と為す
 翻訳:白玉で座席を押さえる――『楚辞』九歌・湘夫人
②原文:相鎭以聲。
 訓読:相鎮むるに声を以てす。
 翻訳:声を押さえつける――『荘子』徐無鬼

①は動かないように押さえる道具の意味、②は重みをかけて押さえつける意味に使われている。これを古典漢語ではtien(呉音・漢音でチン)という。これを代替する視覚記号しとして鎭が考案された。
鎭は「眞(音・イメージ記号)+金(限定符号)」と解析する。眞については967「真」で述べたが、もう一度振り返る。
 眞は篆文の字体だが、金文に遡ると「匕+鼎」と分析できる(白川は故意に金文を無視している)。匕はナイフやスプーンの形(匕首の匕、また匙に含まれている)。鼎にはナイフやスプーンが付き物である。眞の場合はスプーンと見たい。スプーンで鼎に素材を入れる情景を設定したのが眞である。この図形的意匠によって「中に詰め込む」「中身が詰まる」というイメージを表すことができる。
金は金属と関係があることを示す限定符号。したがって鎭は中身がいっぱい詰まった金属製の道具を暗示させる図形となっている。この意匠によって、物を押さえるためのおもしになる道具を意味するtienを表記する。文鎮の鎮はこの意味。重鎮はこれの比喩的用法。動詞としては上の②の意味に転じる。鎮圧、鎮静、鎮魂などの鎮がこれである。白川は転義と本義を見誤った。