「墜」

白川静『常用字解』
「会意。隊は阜(神が天に陟り降りするときに使う神の梯)の前に、犠牲の獣である㒸を置く形で、神の降りたつところを示す。土は土を饅頭形にまるめて台の上に置く形で、それを土地の神とする。墜は神の降りたつところに土地の神を祭り、神の降りたつところという意味であった。それで墜は“とち、つち、ところ”の意味となり、地のもとの字であった」

[考察]
隊と墜は音のつながりがあるから形声のはず。白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。阜(神が天に上り下りする梯)+㒸(犠牲の獣)+土(土地の神)→神の降りたつところ→土地という意味を導く。
神が天に上り下りする梯とは何のことか。こんな物が実在するのか。神が降りた所で土地の神を祭るとはどういうことか。天から降りる神と土地の神はどんな関係があるのか。天の神と地の神が出会う所が土地だというのか。そもそも墜に土地という意味があるのか。疑問だらけである。
白川は地の籀文である墬と墜を混同しているようである。前者は地の異体字で、墜落の墜とは別字である。墜の解釈は誤解の上で成り立っており、その解釈字体も不自然である。
墜の用例を古典に尋ねてみる。
 原文:文武之道、未墜於地、在人。
 訓読:文武の道、未だ地に墜ちず、人に在り。
 翻訳:文王・武王の道はまだ地に落ちておらず、人々の間に存在する――『論語』子張
墜は落ちる意味で使われている。これを古典漢語ではdiuər(呉音でヅイ、漢音でツイ)という。これを代替する視覚記号しとして墜が考案された。
墜の前に隊があった。実は隊に部隊の隊と、墜落の墜の二通りの意味(使い方)があった。これについては1197「隊」で述べている。もう一度振り返ってみよう。
 隊は「㒸スイ(音・イメージ記号)+阜(限定符号)」と解析する。㒸にコアイメージの源泉がある。これはどんなイメージか。㒸は「八(両側に分かれる符号)+豕(ブタ)」に分析できる。ブタの腹が太って↲↳の形に張り出ている情景を設定した図形である(999「遂」を見よ)。太ったブタの腹の形態的特徴から、「集まったもののかたまり」「多くの物の集まり」というイメージがある。また視点を変えると、重みで垂れ下がる状態から、「↓の形に重力がかかって垂れ下がる」「ずっしりとして重い」というイメージも表すことができる。㒸は「多く集まる、物の集まり」と「ずっしりと重い」という二つのイメージを表すことができる。この二つのイメージは可逆的(相互転化可能)なイメージであり、隹や屯にも同じイメージ展開の例がある。かくてなぜ上記のような二つの意味があるかが明らかになった。「ずっしりと重い」のイメージから「おちる」の意味、「多く集ま る」のイメージから兵士などの集団の意味が実現されるのである。(以上、1197「隊」の項)
墜は落(雨や葉っぱなどがぱらぱらと落ちる)とはイメージの違う言葉で、重いものがずしんと落ちるという意味である。