「亭」

白川静『常用字解』
「象形。アーチ状形の出入りの門のある高い建物の形。宿舎と候望(ものみ)とを兼ねた建物を亭といい、“駅亭、しゅくば、やど、ものみ”の意味であったが、のち“あずまや” の意味にも用いる」

[考察]
字形の解剖に疑問がある。352「京」の項では京を「出入り口がアーチ形の城門の形」としている。京と亭は似てはいるが下部が違う。亭の下部は丁である。『説文解字』で言う通り「高の省に従ひ丁の声」と解剖すべきであろう。丁と亭は音のつながりがあり、形声である。
ではどんな意味で使われているか、古典で調べてみよう。
 原文:攻亭一朝而拔之。
 訓読:亭を攻め一朝にして之を抜く。
 翻訳:物見やぐらをあっという間に攻め落とした――『韓非子』内儲説上
亭は物見の建物の意味で使われている。これを古典漢語ではdeng(呉音でヂヤウ、漢音でテイ)という。これを代替する視覚記号しとして亭が考案された。
亭は「丁(音・イメージ記号)+高の略体(限定符号)」と解析する。丁は1273「丁」で述べたように釘の形である。しかし釘という実体に重点があるのではなく形態や機能に重点がある。形態的には「⏉形をなす」「⏊形に立つ」というイメージ、機能的には「直角に打ち当てる」というイメージが取られる。高は高い建物の形で、それと関係があることを示す限定符号。したがって亭は⏉形に立つ高い建物を暗示させる図形である。この図形的意匠によって、国境付近に建てられて外敵の様子を窺う建物(物見やぐら)の意味をもつdengを表記した。
このような意味が先にあって、図形は後で作られた。複雑な内容をもつ意味を図形化するのは容易ではない。「⏉形に立つ」というイメージと高い建物の情報だけを盛り込んだ図形にしたのである。図形から意味を導くとただ高い建物になってしまう。しかし「⏉形に立つ」というイメージが重要である。外敵の様子を窺うという目的を離れて、ただ ⏉形をなす建物という意味に転義する。これが「ちん」(あずまや)である。形態的特徴がこの「ちん」によく残っている。