「停」

白川静『常用字解』
「形声。音符は亭。亭は駅亭の建物の形で、アーチ状の出入りの門があり、宿舎と望楼とを兼ねた高い建物である。亭に人が宿泊することを停といい、“とまる、とどまる、いこう”の意味に用いる」

[考察]
亭は宿泊と望楼を兼ねた建物だから、停は亭に人が宿泊することだという。
停にそんな意味があるのか?
古典における停の用例を見てみよう。
 原文:平者水停之盛也。
 訓読:平なる者は水停(とど)まるの盛なり。
 翻訳:平衡とは水が止まった極限のことである――『荘子』徳充府
停は止まる意味で使われている。一所にじっと止まる、ストップすることであって、宿泊することではない。
停は「亭(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。亭については1319「亭」で述べた通り、⏉形に立つ高い建物である。丁は「⏉形に立つ」というイメージを示す記号である。このイメージは「⏉の形にじっと立つ」というイメージであり、「⏉の形に立ち止まる」というイメージ、さらに「一所にじっと止まる」というイメージに展開する。丁→亭→停と発展しても、これらの根底にあるイメージ(コアイメージ)は変わらない。
人は人間に関係があることを示す限定符号。限定符号は意味領域を指示するほかに、図形的意匠を作るための場面設定の働きもある。停は人と関係のある場面を設定し、人がある場所にじっと立ち止まるという情景を作り出した。これが停の図形的意匠である。図形的意匠は意味と同じではない。停の意味は上記の通り「一所にじっと止まる」である。限定符号は意味素に入らないことが多い。
白川は「亭+人」から亭に人が宿泊するという意味を導いたが、図形的解釈と意味を混乱させ、しかも意味を取り違えている。