「点」
正字(旧字体)は「點」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は占。占は店の意味で、爵を置くような狭い場所の意味がある。そのような小さな汚れ、“小さな黒点、くろぼし”を点という」

[考察]
「占は店の意味」というが、店という字が出現するのは六朝時代を遡れない。點の字の出現は春秋戦国時代である。歴史的に見て店の意味から点が出てくることはあり得ない。また占に「爵を置くような狭い場所」という意味もない。
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。これは言葉という視座がなく、字形から意味を求める白川漢字学説の方法と関わりがある。
言葉という視座から言葉の深層構造に掘り下げ、語源的に意味を説明するのが形声の説明原理である。意味を導くのではなく、なぜそんな意味があるかを説明するのである。意味は文脈から知ることができる。字形から意味を求めることはあり得ない。言語学に反するからである。意味はあくまで「言葉の意味」である。
點は次のような文脈で使われている。
 原文:或黕點而汚之
 訓読:或いは黕点タンテンありて之を汚す
 翻訳:あるいは黒いしみで汚れてしまう――宋玉・九弁(『文選補遺』巻二十九)
點は黒い小さなしみ・ぽちの意味で使われている。これを古典漢語ではtām(呉音・漢音でテム)という。これを代替する視覚記号しとして點が考案された。
宋玉は戦国時代の詩人(辞賦作家)。春秋時代には曾點という人名があった。この時代に點が普通名詞に使われたかは分からないが、ありそうではある。普通名詞としては上の用例ぐらいしかない。
點は「占(音・イメージ記号)+黑(限定符号)」と解析する。占は「うらなう」「しめる」というのが文脈で使われる意味。この語の深層構造を探ると「一つの所に定着する」というコアイメージをつかむことができる。深層構造が表層に現れたのが「うらなう」や「しめる」である。占うとは吉か凶かのどちらか一つに定めることである。また占めるとはある場所を決めてそこに居すわることである。これらの行為は「一つの所に定着する」「一つの所に取りついて離れない」というコアイメージから展開する意味なのである(占の字源については1072「占」を見よ)。
點が占の記号をもつ理由がこれで明らかになった。一つの場所に定着した(くっついて離れない)黒いしみが點である。
形声の説明原理とは言葉の深層構造から意味を説明する方法である。この方法はすべての漢字の説明原理ともなりうるものである。