「凍」

白川静『常用字解』
「形声。音符は東。東は橐ふくろの形で、上下を括った袋の中に、物が詰め込まれている形である。その袋の状態が凍結(こおりつくこと)の形と似ているとするものであろう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。東(物が詰め込まれた袋)+冫→凍結という意味を導く。物が詰め込まれた袋が凍結の状態と似ているからという。ただし冫の説明はない。
物の詰め込まれた袋と凍結が結びつくだろうか。必然性も合理性もない。
予め凍が「こおる」という意味だと知っているから凍結という言葉で字源を説明している。意味を導くのにその意味を使って説明するのは同語反復であろう。
意味とは「言葉の意味」であって「字形(文字)の意味」ではない。字形から意味が出るのではなく、文脈から出るものである。文脈における言葉の使い方こそ意味にほかならない。古典における用例から凍の意味を知ることが先決である。字源はその後である。
 原文:水始冰、地始凍。
 訓読:水始めて冰り、地始めて凍る。
 翻訳:[初冬の月になって]水が始めてこおり、大地が始めてこおりつく――『呂氏春秋』十月紀
凍は氷が張り渡る、あるいは液体が凝結するという意味で使われている。これを古典漢語ではtung(呉音でツウ、漢音でトウ)という。これを代替する視覚記号として凍が考案された。
凍は「東(音・イメージ記号)+冫(限定符号)」と解析する。東については1373「東」で述べた通り、心棒を通した袋の形である。用途はおそらく工事用と考えられる。しかし実体や用途に重点があるのではなく、形態に重点がある。東は「突き通す」というイメージを表すための記号なのである。東は重(動・種・衝)や童(鐘・撞)などでも使われ、すべて「突き通す」というコアイメージが共通である。冫は氷に関係があることを示す限定符号。
こおるという現象はどういうことか。古代人が科学的に考えたわけではあるまいが、温度が下がって水が凝結する現象、液体が固体に変化していく姿を見たはずである。固体に変化する姿を捉えたのが凝、凝結する瞬間に筋張ったように見える姿を捉えたのが冰(氷)。これに対して空間的に張り渡る姿を捉えたのが凍である。段玉裁は「こおり始めることを冰といい、こおりが盛んになることを凍という」と述べている(『説文解字注』)。
凍はこおりが一面に突き通っていって張り渡る情景を想定した図形と解釈できる。「突き通る」は線条的なイメージであるが、これが四方八方に及ぶと、平面的に張り渡るというイメージになる。