「督」

白川静『常用字解』
「形声。音符は叔。爾雅に“正すなり” 、説文に“察するなり”とあって、監督して、“みる、よくみる、ただす、いましめる”の意味とする」

[考察]
叔から会意的に説明できないから爾雅や説文を引用している。字源の体をなしていない。もっとも「叔は聖器の戚まさかりの頭部を持つ形であるから、戚の権威によってことを督ただすという意味であるとも考えられる」と付け加えているが、 まさかりの権威によって事を正すとは何のことか。臆測に過ぎない。
古典における督の使い方を見る。次の用例がある。
 原文:督其成事、勝其任者處官。
 訓読:其の成事を督し、其の任に勝(た)ふる者は官に処らしむ。 
 翻訳:功績をよく見て、任に堪える者を官職につける――『管子』明法解
督は悪いことが起こらないようによく見張るという意味で使われている。これを古典漢語ではtok(呉音・漢音・でトク)という。これを代替する視覚記号しとして督が考案された。
督は「叔(音・イメージ記号)+目(限定符号)」と解析する。叔については830「叔」で述べたが、もう一度振り返る。
 叔は「尗シュク(音・イメージ記号)+又(限定符号)」と解析する。尗は蔓を出したマメを描いた図形である。菽(ダイズ)の原字と言ってもよい。尗は「小さい」というイメージがある。このイメージは「小さく(細く)引き締まる」というイメージにも転化する。又は手の動作に関わる限定符号。したがって叔は手の指を引き締めて物を取る情景を暗示させる。(以上、830「叔」の項)
叔は「細く引き締める」というイメージもつ記号とすることができる。このイメージは「中心に向けて引き締める」というイメージにも転化する。「引き締める」は物理的なイメージだが、心理的・精神的なイメージにも転用できる。目は目や見ることと関係があることを示す限定符号。したがって督は見落としがないように中心に向けて引き締めてよく見張る状況を暗示させる。ある事柄をよく見るために意識をそれに集中させる。ここに「(散漫にならないように)引き締める」というイメージが含まれている。監督とは上の目線で下のものをよく見張ることである。