「濃」

白川静『常用字解』
「形声。音符は農。農ははまぐりなどの貝殻(辰)で作った蜃器で耕すことをいう。農作業には非常に多くの労力が必要であるので、農にはあつい、てあつい、こまやかの意味がある。濃は説文に“露多きなり” とある。物の“こい、こまやか”の意味である」

[考察]
「農作業には非常に多くの労力が必要であるので、農にはあつい、てあつい、こまやかの意味がある」というが、農にこんな意味はない。農作業に多くの労力が必要だから「厚い、手厚い」の意味が生まれるとは不自然な意味展開である。また「厚い、手厚い」と「濃い、細やか」に何のつながりがあるのか分からない。
白川漢字学説には言葉という視点がなく、言葉の深層を探ることがなく、コアイメージという考えもないから、意味展開を合理的に説明できない。
農の基本は耕すことである。固い土を鋤き返して柔らかくし、作物を作る仕事が農である。だから農の根源のイメージ(深層構造)は「柔らかい」というイメージである(1456「農」を見よ)。
「柔らかい」というイメージはねちねちと粘る、ねっとりとしているというイメージにつながる。液体の場合、水以外の成分が含まれていると密度が高くねっとりした状態になる。この状態を古典漢語ではniung (呉音でニュウ、漢音でヂョウ)という。これを「農(音・イメージ記号)+水(限定符号)」を合わせた濃で表記する。
膿(うみ)は農を基幹記号としている。ねっとりと柔らかいというイメージがよく現れている。