「梅」
正字(旧字体)は「梅」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は毎(每)。字はまた楳に作り、音符は某。“うめ”をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では毎や某から会意的に説明できず、字源を放棄している。 
梅はきわめて語史が古く、次の用例がある。
 原文:摽有梅 其實七兮 求我庶士 迨其吉兮
 訓読:摽(なげう)つに梅有り 其の実は七つ 我を求むる庶士 其の吉に迨(およ)べ
 翻訳:投げるウメの実 手元に七つ 私がほしい男たち 良い日柄を外さずに ――『詩経』召南・摽有梅
古典漢語でウメのことをmuəg(呉音でメまたはマイ、漢音でバイ)という。これを代替する視覚記号しとして梅が考案された。
梅は「每(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。每は「母(音・イメージ記号)+屮(限定符号)」と解析する。母は生む存在である。生む行為は無から有を発生させ、子孫を殖やすことである。子は母胎という暗い世界から明るい世界に出てくる。屮は草と関係があることを示す限定符号。草は暗い地下から明るい地上に出てくる。このように母と每は「無」「無い」「暗い」「次々に殖やす」という共通のコアイメージをもつ語である。
ウメという木の果実は酸味があり妊婦に好まれる。この事実と妊娠・出産・生殖という行為が結びつけられ、ウメが妊娠・出産のシンボルとなり、「次々に殖やす」というイメージをもつ每と同音でウメが名づけられ、梅という視覚記号が作られた。
上記の文献に出る梅も妊娠・出産のシンボルである。これはさらに恋愛・結婚とも結びつく。女が男に梅の実を投げ与え、男の関心を惹き、結婚を求めようとする。最初は七個の梅を用意していたが、七→三→ゼロと次第に数が減り、梅を受け取る男が現れず、結局失恋する という女の歌である。ただし深刻な恋愛詩ではなく戯れ歌である。