「培」
白川静『常用字解』
「形声。音符は咅はい。咅は草木の実が熟して、剖われようとしている形。剖れて数多くなることを倍といい、ますの意味となる。草木の根もとに土をますこと、土を加えることを培といい、“つちかう”の意味となる」
[考察]
咅の解釈の疑問については1477「倍」で述べた。咅を象形文字と見るのは無理。咅は「丶+否」に、否は「不+口」に次々に分析できる。
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法であるが、意味の導き方が不自然である。草木の実が割れる→割れて数が多くなる→草木の根元に土をますと展開させるが、実が割れるとなぜ数が多くなるのか。なぜそれから「草木の根元に土をます」という意味が出るのか。
まず培の用例を古典から見よう。
①原文:墳墓不培。
訓読:墳墓は培せず。
翻訳:墓は[それ以上]土を盛り上げない――『礼記』喪服四制
②原文:栽者培之。
訓読:栽(う)うる者は之を培ふ。
翻訳:植えたもの[草木]はつちかって育てる――『礼記』中庸
③原文:乃今培風。
訓読:乃ち今風に培(の)る。
翻訳:[鵬は]ちょうど今、風に乗っかる――『荘子』逍遥遊
①は草木や塀などに土を重ねて盛り上げる(盛りつける)意味、②は植物を育てる意味、③は物の上に重なるように乗る意味で使われている。これを古典漢語ではbuəg(呉音でベ・バイ、漢音でハイ)という。これを代替する視覚記号しとして培が考案された。
培は「咅ホウ(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。咅については1477「倍」で既述。結論だけを述べると、咅は「AとBに(二つに)分かれる」「AとBがくっついて並ぶ」というイメージを示す記号である。図示すると
▯-▯の形。これは並列のイメージだが、視点を横(水平)の軸から縦(垂直)の軸へ換えると、〓の形、「Aの上にBが重なる」というイメージに転化する。したがって培は草木や塀などの根元に土を重ねる状況を示す。この意匠によって、植物を育てたり、塀を保護するために、根元の部分に土を盛ることを表している。「Aの上にBが重なる」というイメージは上の③によく現われている。
白川静『常用字解』
「形声。音符は咅はい。咅は草木の実が熟して、剖われようとしている形。剖れて数多くなることを倍といい、ますの意味となる。草木の根もとに土をますこと、土を加えることを培といい、“つちかう”の意味となる」
[考察]
咅の解釈の疑問については1477「倍」で述べた。咅を象形文字と見るのは無理。咅は「丶+否」に、否は「不+口」に次々に分析できる。
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法であるが、意味の導き方が不自然である。草木の実が割れる→割れて数が多くなる→草木の根元に土をますと展開させるが、実が割れるとなぜ数が多くなるのか。なぜそれから「草木の根元に土をます」という意味が出るのか。
まず培の用例を古典から見よう。
①原文:墳墓不培。
訓読:墳墓は培せず。
翻訳:墓は[それ以上]土を盛り上げない――『礼記』喪服四制
②原文:栽者培之。
訓読:栽(う)うる者は之を培ふ。
翻訳:植えたもの[草木]はつちかって育てる――『礼記』中庸
③原文:乃今培風。
訓読:乃ち今風に培(の)る。
翻訳:[鵬は]ちょうど今、風に乗っかる――『荘子』逍遥遊
①は草木や塀などに土を重ねて盛り上げる(盛りつける)意味、②は植物を育てる意味、③は物の上に重なるように乗る意味で使われている。これを古典漢語ではbuəg(呉音でベ・バイ、漢音でハイ)という。これを代替する視覚記号しとして培が考案された。
培は「咅ホウ(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。咅については1477「倍」で既述。結論だけを述べると、咅は「AとBに(二つに)分かれる」「AとBがくっついて並ぶ」というイメージを示す記号である。図示すると
▯-▯の形。これは並列のイメージだが、視点を横(水平)の軸から縦(垂直)の軸へ換えると、〓の形、「Aの上にBが重なる」というイメージに転化する。したがって培は草木や塀などの根元に土を重ねる状況を示す。この意匠によって、植物を育てたり、塀を保護するために、根元の部分に土を盛ることを表している。「Aの上にBが重なる」というイメージは上の③によく現われている。
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