「閥」

白川静『常用字解』
「形声。音符は伐。伐に伐旌(軍功を表彰すること)の意味がある。伐旌の伐は古くは蔑に作り、軍功を表彰することを蔑暦という。閥は伐べつの音と意味をうけて、“いさお、てがら”の意味に用いる。門に家、いえがらの意味があり、軍功を表彰された家を閥といい、“いえがら”の意味となる」

[考察]
伐は蔑の仮借とするようである。蔑暦が「軍功を表彰する」の意味で、のちに蔑の代わりに伐べつと書くようになり、「軍功を表彰する」ことを伐旌といい、この伐を用いて閥ができ、「いさお」の意味から「いえがら」の意味になった、という説明。
これでは白川漢字学説独特の会意的説明になっていない。伐の説明がない。伐を蔑の仮借としか見ていない。
閥は伐から分化した字で、漢代以後の文献に出現する。白川はおそらく金文にある蔑暦の蔑の仮借とするが、歴史的に見てあり得ないことである。『論衡』(後漢、王充撰)や『潜夫論』(後漢、王符撰)に閥閲の熟語で出ているが、閥は功績、閲は経歴の意味。また、閥は代々功績を立てた家柄の意味。
伐とは何か。1501「伐」で見たように、刃物などで切るという意味で、「二つに分ける」というコアイメージをもつ語である。「二つに分ける」というイメージから、「分け開いて見せる」というイメージに転じ、手の内を他人に開いて見せる、見せびらかす(自慢する、ほこる)という意味が生まれる。『論語』公冶長に「願はくは善に伐(ほこ)ること無からん」(自分の善を自慢しないようにしたい)という用例がある。
伐に「ほこる」という意味があった。自慢したいものの一つが手柄や功績である。この意味に特化させたのが閥である。さらに個人ではなく個人の生まれた家に特化させて門閥などという。後世では家だけではなく財閥、軍閥などの使い方が生じた。白川は軍功に限定しているが、これも歴史的に合わない。