「筆」

白川静『常用字解』
「会意。聿(ふで、のべる)は筆の形と又とを組み合わせた形。又は手の形であるから、聿は筆を手に持つ形で、ふでの意味となる。聿が筆のもとの字である」

[考察]
聿は筆の原字だというが、聿(音はイツ)と筆(音はヒツ)で音が違う。これはなぜか。白川漢字学説は言葉という視点がないので、これを全く問題にしない。
『説文解字』によると楚では聿(イツ)といい、呉では不律(フリツ)といい、燕では弗(フツ)といい、秦では筆(ヒツ)といったという。そうするとイツとヒツは方言の違いということになる。
これを踏まえて字源を考えると、「聿(音・イメージ記号)+竹(限定符号)」と解析できる。聿は甲骨文字・金文では「ふでの形+又(て)」の組み合わせで、ふでを立てて持つ図形。したがって筆は竹で製した「ふで」を表す。
聿は筆を念頭に置いて図形化されているが、形態的には「立てる」というところにポイントがある。このイメージが建・健や肅(粛)などに反映される。一方、筆は機能的には文字を書く道具である。書く行為は区画をつけることであるので、聿は「区切る」「区画をつける」というイメージに使われ、畫(画)や肇などに反映されている。