「猫」

白川静『常用字解』
「形声。音符は苗。“ねこ”をいう」

[考察]
苗を擬音語とするのが通説だが、白川はこれを取らない。しかし苗からの会意的な説明がない。形声も会意的に説くのが白川漢字学説の特徴であるが、本項は字源を放棄している。
猫は貓が本字で、古典に次の用例がある。
①原文:有熊有羆 有貓有虎
 訓読:熊有り羆有り 貓有り虎有り
 翻訳:[韓の国には]クマもいればヒグマもいる ネコもいればトラもいる――『詩経』大雅・韓奕
②原文:迎貓、爲其食田鼠也。
 訓読:貓を迎ふるは、其れに田鼠を食はしむるが為なり。
 翻訳:ネコを迎えるのは、それに田のネズミを食ってもらうためだ――『礼記』郊特牲

①は猛獣を列挙しているから、普通のネコではなく、ヤマネコである。ヤマネコを馴化したのがイエネコで、②はこの意味。ヤマネコを苗と同音でmiɔg(呉音でメウ、漢音でベウ)といい、「苗(音・イメージ記号)+豸(限定符号)」を合わせて貓で表記した。
なぜ苗を用いるのか。理由の一つは鳴き声がmiɔgに近いからであろう。その他にイメージと関わっている。ヤマネコは深い深林に潜み、めったに姿を現さない。苗には「細い」「小さい」「かすか」「よく見えない」というコアイメージがある(1566「苗」、1569「描」を見よ)。ヤマネコの鳴き声の特徴や生態的習性から「細くて小さい」「よく見えない」というイメージをもつ苗との共通性を見出し、miɔgという言葉と貓という表記が生まれたのである。